なんでこんなことになったんだろう、と何度となく自問した問いにため息でふたをする。

すると、そう言った百井くんが、こちらの心の準備もままならないうちに店のドアを引いた。

どうしてお母さんまで知っているの?と半分口が開きかけたけれど、本人に直接聞いたほうが絶対に早いと思い直したわたしは、彼が開けて待っていてくれるドアから体を滑り込ませ、ほのかに桃の香りが漂う店内へと、おずおずと足を踏み入れる。

ついにご対面だよ。

無駄に緊張しちゃうよ、ほんとにもう……。


「ただいま」

「おかえりー。って、あらやだ、可愛い彼女さん!」

「……もっ、百ノ瀬仁菜と申しますっ、夜分遅くに押しかけてしまってすみませんっ」
 

わたしの姿を目にした瞬間、表情をぱっと明るくさせて満面の笑みを作ったお母さんにぺこぺこと頭を下げる。

百井くんのお母さんは、歳の頃、わたしの母と同じ40代中盤だろうか。

スラリと背が高い人で、一見すると百井くんと同様、シャープな印象を覚えるけれど、笑ったときに目がなくなるほどに細くなるそのギャップが、とても可愛らしい。