学校での百井くんは、例の顔面三原則を除けば遅刻はしないし授業もサボらない普通の生徒。

なのにどうして〝悪い噂の絶えないヤンキー〟なんて言われ、生徒どころか、教職員の先生方からも怖がられているのだろう。

昨日まではわたしもその中のひとりだったし、噂を鵜呑みにしていたのが今になって恥ずかしい。

だけど、よくよく考えてみれば、百井くんに対する一連の噂の出所が今ひとつ不鮮明に思えるのも本当だ。

とはいえ、亜湖には話さなくちゃと思う。


「ね、仁菜、百井なんかに話しかけて大丈夫なの? あの人、つい最近も他校の生徒10人を相手に素手で戦って勝っちゃったんだってよ? 弱み握られてるなら一緒に警察に行って相談しようよ」

「……まずは先生じゃないの、そこ」

「先生じゃ無理よ、だって百井だもん」

「まあ、そうかもしれないけど……」


まったく……。

こんな根も葉もない噂話をどこから拾ってきたのやら。

どえらい強いらしい百井くんは本当はツンデレが面白い普通の男の子ですよ、と早く教えてあげなければ、このとおり、わたしは彼女の中で脅されている子になってしまう。