けれど、結局は彼の言葉をいったん脳内で質問化しなければならないのが思ったより大変なので、そのせいで怖さをあまり感じなくなったのではと考えれば、もしかしたら、そうかもしれない。


「ふーん。じゃあ、それ持ってこっち」


しかし百井くんには、すでに脳内変換に辟易しているわたしを、そんなに容易く解放してくれるつもりは毛頭ないらしい。

いまだにわたしのひざの上にあるスケッチブックをあごでしゃくって指し、一体どこへ連れていくつもりなのか、付いて来いと言う。

もちろんわたしには『池のんに頼まれていた掃除が終わったので報告に行かせてください』と言って逃亡する度胸も肝も据わっていない。


「オイ、遅せぇぞ」

「い、今すぐ……っ!」


ので、暴君・百井くんに黙って付き従うほかないのが実情というわけで。

……あれ、これってパシリに近くない?

大股で歩く百井くんを走って追いかけながら、ふとそんなことを思ったけれど、それ以上考えたら泣きたくなるから、もう考えないことにした。





そうして連れてこられたのは、なぜか旧校舎に位置する美術室だった。

といっても、第1から第3までのどれでもなく、卒業した美術部員の忘れ形見置き場になっている、わずか六畳ほどの小部屋だ。