「あのさ…ドイツに行くって話なんだけど…」


「え…どうして瀬戸さんが?」


電話口の彼女は、いつもと声色が違った。

何故、それを知って…



「断ったって、本当?梶井さんって人から聞いた…」


「教授が…何で瀬戸さんを知ってるんですか?」


黒いモヤモヤしたものが胸の中で増殖していく。それに追い討ちをかけるように、瀬戸さんは続けた。



「…自分の為に、行った方が…いいんじゃないかな…」


「瀬戸さん…?」


「俊介の夢、ここで諦めちゃダメだよ」



違う。夢ならドイツに行かなくても…


なのに、声が出なかった。



「まだ間に合うよ…」



首を絞められたわけでもないのに、呼吸が苦しくて。


ズキズキと、痛みが…


「さよなら…俊介」





時間が止まったみたいに。

一気に何も聞こえなくなって、目の前が真っ白になっていく。


僕は、そのまま膝から崩れ落ちた。




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