ケータイ小説 野いちご

古代風より

2古代の風より。2

大島駅前から三人はバスに乗り北へ向かう。和壁村へは約一時間。
バスには唐木達の他には土地の人らしい五人が乗っていて、土地言葉で賑やかに話していたが、その人達が降りてからはバスの中は静まり返っている。
唐木達は話しはしない。そもそもこの三人は必要以外会話はしない。

バスは走る。更に北へ……
ここは冬の到来は速い。……が、まだ緑は深く民家は点在して、民家の周りには緑が広がり、その広がりは山の麓へ続き、山裾から山の頂きへ続いている。後……一月もすればその緑は静かに色付き枯れてゆく。
バスは走り……一度停まる。

母娘と思われる二人が乗ってきて、唐木の前に座った。
唐木の隣に座っていた中山が唐木に伝えた。
「先生……あの子……」
……が声は聞こえない。中山は「陰声」の術を使っている。口元を動かさず、声は聞こえず、それでいて自分の伝えたい相手にその声が届く術だった。相手が複数でも出来るが、相手もこの術が使える事が前提になる。
「陰声」の反対に「陽声」がある。陽声は逆に山一つ隔てた相手と会話をする為の「大音量の声」を出す術である。
陰声、陽声、これが両方出来るのは唐木の弟子の中でも数人しかいない。
水無も中山が「陰声の術」を使ったのは察知した。水無も唐木から認められた教団の逸材だった。
「………分かっている」
唐木が答えた。
中山が唐木に伝えたかったのは、娘の背後に「何者」かが潜んでいる、ということだった。もちろん常人には見えない。
「……動くな……」
唐木は中山と水無に伝えた。
「何が起きても狼狽えるな……」
中山と水無は己の神経を集中させた。唐木の真意は既に汲み取っている。

「あれを………星が……」
少女は三人の背後の窓を指差した。
陽が落ちて……星が昇る……
しかし……
「……見ては……いけない……」
……分かってはいる…が……

中山の頭は己の意思とは反対に徐々に背後の窓を向く。
「陽が………昇る?」
丘が見え、窓の外の闇が明るくなってくる。
丘の向こうから陽が昇り始めた。

……ここは……
中山は辺りを見まわした。
丘の上に人がいる…
近付く…更に歩き近付く…
丘の上には女がいた。癖のある毛を後ろで纏めている。
その女の側には男……が跪いている。横顔が似ている。
また…近付く。女…の横顔が見える。
女が手を挙げた時、地鳴りが起こり凄まじい歓声が沸き起こった。中山の眼は丘の下に向き群衆の姿を捉えた。
「あれを見よ!」
女が指差した。中山の視線は女の指先を追う。
……明けの明星?……

「あれは、わ(私)じゃ!」
女が叫んだ。
水平線の彼方から一際光る星が見え、中山は女の側に寄り女の顔を見た。
目尻はこめかみまで切れ上がり、黒目の半分は上瞼に隠れて、まるで鋭く尖った三日月を連想させた。
誰も彼をも畏れさせる顔をしている。
……風が吹いた……
風が吹きその風が中山の頬を撫ぜ、その風は丘の上の女の髪を揺らした。
中山が見ていた女の横顔が徐々に動き、その切れ長の目が中山の顔を捉え、言う。
「おお!お前は…占い師か!…(わ)の名は?言え!我が名を言え!」

二度目の風が吹き中山の頬を撫ぜた。
「!!!」
弾けた……中山の夢想は弾けて我に返った。



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