彼女はただ母親が欲しいから日頃の願望が夢の中にあらわれたただそれだけのことだと思う。

祈ちゃんはなんでも、毎日沙良(サラ)さんのお仏壇の前で手を合わせ、『もうひとり、ママをください』とお願いをしているらしいから。


「でもね美樹(ミキ)さん、潤本人はまだ自覚していないけれど、きっとあなたに惚(ホ)れてるわよ?」

なおもおかしなことを言う端月さんに、あたしは静かに首を振った。


……だって、そんなの有り得ない。


「潤さんには奥さんがいます」

「沙良(サラ)さんでしょう? でも、彼女はもうここにはいないわ。潤はもうそのことについて理解しているはずよ」

「いいえ、いいえ。そんなことはありません」

亡くした奥さんを今も潤さんは想っている。それは、毎朝沙良さんの仏壇で拝んでいるその優しげな横顔でわかる。

女性として、彼が必要としているのは沙良さん、ただひとりだけだ。

そう実感すると、あたしの胸がズキズキと痛み出す。

いくらひとつ屋根の下で一緒に住んでいるからといっても、しょせん、あたしは彼にとって『役に立つ家政婦』の存在でしかない。

そりゃそうよね、だってあたしは慶介(ケイスケ)の子供を身ごもってしまった浅はかな考え方をした奴だ……。

今さら誰も相手にはしないだろう。


「そう? じゃあ、今はそういうことにしておいてあげようかしら……」