「とーも」


今日もあたしが一足先に帰って夕飯の準備をしていたら、帰ってきた蒼ちゃんが後ろから抱き着いてきた。


「蒼ちゃん、危ない。油使ってるから」

「冷たいー。今日何の日か忘れたのー?」


あたしの後ろで眉を下げた蒼ちゃんがあたしの肩に顔を埋めた。


「忘れるわけないでしょ」


あたしは黙って後ろのテーブルを指差した。


指差した先には、青い包装紙で包まれた小さな包み。


「なーに?」


あたしから離れて、蒼ちゃんが包みを開ける。


あたしはその後ろで油で揚げている肉に集中した。


「と、ともっ、ともー!」


蒼ちゃんが一瞬であたしを後ろから思い切り抱き締めた。


「うわっ! 危ないっ。い、痛いからっ!」


蒼ちゃんはぎゅうぎゅうと抱き締めて、あたしの頬にキスした。


「俺が欲しかったピアスー! 高くて買えなかったやつー!」

「それでよかった?」

「どんぴしゃ!」


あたしが選んだのは、水晶の小さなピアスだった。


男の子だけど石のピアスが欲しいと以前言っていたのだ。安っぽいガラスじゃなくて、水晶がいいと言った。


小さいけど、本物の水晶だから値段はけっこう張る。


半月に一度の飲み会でおこづかいの大半が消える蒼ちゃんは買えないと諦めていたのだ。


「とも大好きいー!」

「でも、小さいし目立たないよ」

「それでもいいの! 一生ともに貢ぐー!」

「そりゃあ、どうも……」


こんな小さいピアスでこんなに喜んでもらえるなら、買ったかいがあったか。


「ね、これいくらしたー?」

「値段は気にしないでよ。二十歳のお祝いなんだし」


そう、今日は蒼ちゃんの二十歳の誕生日だ。