「…っ、たぁっ!」


その数秒後、亜子は痛みで頭を抑えて立ち上がった。涙目で投げた張本人、笹倉を睨みつける。


「先生っ! 何すんの!」

「あ?何ってチョーク投げた」


詫びる気のない様子で平然と答える笹倉。


「何でっ!」

「お前が寝てたからだ」

「だったらもっと普通の起こしかたしてよっ!」


髪の毛に散らばっている白い粉砕を手で払いながらも目は彼だけを捉え、口もしっかり動かす。


「普通ねぇ…」


そう呟くと笹倉は目を細め、教師らしかぬ悪い顔をする。


「じゃあ次からはお前の恥ずかしい話を大声で話して起こしてやろうか?」

「すいませんでした」


彼がにこりと笑顔で口にした瞬間に腰を90度に曲げ顔が机にくっつくスレスレで謝った。


(……コイツに普通を求めたのが間違いだった)


内心舌打ちしたい気分になったがそんなことをすれば明日が危ない。

どんな仕打ちが待っているか分からないのだ。


「それでいい。にしてもすげぇな、その頭」

「へへーん!唯一あたしが自慢出来るのはこの石頭だけだからね」

「……峯、お前って可哀想な奴だな」


どや顔した亜子に対し、笹倉は本気で彼女を哀れに思った。