不意に南がそう呟きました。

彼は携帯を弄って居ません。そして空を行く鳥を見て目を細めたのです。

リンダはその表情の意味が良く分かりませんでしたので、こう尋ねて見たのです。


「あんた、ほんとは、やりたい事が有るんじゃないの?」


南の表情は明らかに変化しました。何か言いたい。しかし言い出せない、そんな困惑の表情が見て取れました。

初対面の時から、こんな表情は見た事が有りません。地球に居る事は、それ程幸せでは無いのだろうかと思ってしまう程でした。

「そうだ、そう言えば、昨日の数学の問題…出来る様になったのかよ」

藪を突っついてたら蛇が出ました……

「えっ――あぁ、あれ、ねぇ」

今度はリンダの視線が泳ぎます。そして座ったまま、シートの端っこに向かって、ずりずりと逃げて行きました。

「帰ったらノート見せろ。出来てないなら夜も補修だ」

南の瞳に鈍い輝きが戻って来ます。

リンダは思いました。こいつ、やっぱり苛めっ子だと。そして、のどかな光を放つ太陽が、何時までも沈まなければいいな……と、思いました。