「お!噂をすれば!!」



俺より景の前に出ようとした大地の襟首を掴んで、後ろへ引っ張る。
勢いが思いの外よく、大地が後ろで咽せている。



「僕の話してたの?」
「気にすんなって。どうかしたのか?」
「あ、うん。えっと……一緒に帰らない?」



やっぱ景は可愛いと思う。
このちょっと俯いて言う感じとか、すっげー可愛いし。



「もちろん。」



景は顔を上げて嬉しそうに笑う。


ああ、もう!
今すぐ抱き締めてやろうか!!



「それで、あの――」
「律樹!!」



言いかけた景の言葉を遮ったのは、高いキーの声。


近付いてきた女子生徒はどこかで見覚えのある顔だった。



「……なに?」


多分今の俺は不機嫌極まりない顔をしている。

せっかくの景との時間を邪魔しやがって…!


「この前の話考えてくれた?」
「この前………?」




“今度は私と遊んでよ”



あ、なんかそんな事言われてた気がする。



確か名前は奈美恵だったっけか?



「あー…悪いな。俺そういうの止めたんだ。」
「止めたって…まさか噂本当ってわけじゃないよね?」
「……だったら?別にいいだろ。他当たってくれよ。」



俺は景との時間を堪能したいんだっての。



「良くないわよ。そんなの律樹らしくないよ。」
「らしくなくても俺なんだよ。大地、俺帰るわ。景、行こう。」



煩わしくなって、俺は景の手を引いて歩き出した。



景は良いのかと彼女を気にしていたけど、俺は良いんだと答えた。


あの子には悪いけど、俺には景がいるから。