「…あたし。テスト完了。無理だわ、これ」



 電話の向こうで何か喚き散らす声が聞こえてきたが。



「誰も出来ないなんて言ってないでしょ!“狙撃”は無理だって言ってんのよ。狙うならガードがいなくなった時を狙うから、そっちで調べてよ!!」



 一方的にそう言って、ミサトは通話を終わらせた。

 ガチャガチャとライフルを分解して、無造作に鞄の中にそれをしまう。

 重い鞄を肩に担いで立ち上がると、もう一度ホテルのほうを見た。

 車はすでになく、ロビーの前はがらんとしていた。



「あの茶髪、只者じゃないわね…」



 呟いて、ミサトはその場を後にする。

 帰ったら絶対、 冷たいシャワーを浴びてやるんだ、と心に誓いながら。



☆ ☆ ☆




 遥か向こう、真正面に見えるビルの屋上。

 チカッと、一瞬何かが反射したように見えた。

 エイジは一歩前に出て、そのビルの方角をじっと見つめる。



(あんな場所から、狙撃なんてできんのか?)



 この狭い国に、そんな腕のいい狙撃手がいるとは聞いてなかったが。



「この国はいかがですか、ロン様」



 リムジンのドアを開けながら、このホテルの支配人らしい男が聞いた。



「あァ。日本は悪くない…ただ、我々のような人間にはちょっと狭すぎるな…」



 ロンはそう言うと、車に乗り込もうとした。

 そして、どこかに向かって真っ直ぐに手を伸ばしているエイジに気付く。



「何をしている、ただの雇われガードが。ふざけてばかりいると、クビにするぞ」

「それはちょっと困りますねェ…こっちも食い扶持、稼がなくちゃならないんで」



 エイジは肩をすくめて、リムジンの後ろに控えている黒塗りの車に乗り込む。