旬の震えた瞳の中にあたしが映っている。


なぜ、そんな目をするの?

あたしはその答えを聞く勇気もない。

受け入れる自信もない。

今のあたしには、旬にしてあげられる事がみつからない。



学校では、勉強が出来て、スポーツも万能な旬。

その旬の心の裏側に、何があるかなんて あたしに知る権利はない。



でも……。



濡れた、あたしの頬や髪を拭きながら旬は言った。



「俺、何してんだろうな」



困ったように、笑う旬。


「桜井が……、相田に呼び出されてて、俺すげぇ焦った。離れてくって……。
それで気付いたんだ。俺は桜井が好きなんだって」



俯いたまま旬は丁寧に話す。




あたしはなぜだか急に涙が溢れた。
理由なんて自分でもわからない。


「桜井……」


雨に濡れた旬の唇が、あたしの唇と重なった。




ぎこちない、キス。



肩に置かれた、旬の手は震えていた。


部屋の中には雨音が遠くに聞こえる……。



旬の手は行き場をなくしてしまったように、動きを止めている。




重なった唇は少し小刻みに震えていて。
でもあたたかくて、熱くて。
優しいキス。


あたしのすべてを奪っちゃうような、要のキスとはまるで違う。



「……」



あたしはどこまで最低な女なんだろう。