……だけど、ドアの隙間から覗いたヤマタロの顔はものすごく不機嫌そうで。

もしかして、寝起き? 
もうお昼前なのに?

恐る恐る「おはよう」って声をかけると、ヤマタロは、ドアノブに手をかけたまま、口を開かずに「ん」って返すだけ。

もうちょっと甘い笑顔で見つめてくれてもいいのに。
ヤマタロの乾いた視線は、私の頭のてっぺんから靴の先まで、軽く往復しただけだった。


もーう。どうしてこんなに機嫌悪いの?

おかげで、電車の中で何度も練習した、とびきりの笑顔も、『私が“お土産”だよ!』っていう言葉も、どこかに飛んでいっちゃったじゃん!


いつまでたっても黙ったままだから、仕方なしに話を続ける。

「えーと……誰もいないの?」

「今日、妹のバレエの発表会だから。夕方までオレ一人で留守番」

「見にいかなくていいの?」

「あとから飽きるくらいビデオ見せられるし」

「……そっかー」


ヤマタロには、幼稚園に通っている妹がいる。

年の離れた妹のことが、ヤマタロも、両親も、かわいくて仕方ないみたいだ。


……それにしても、この盛り上がりに欠ける会話は、なに?