30分前――。

その時は空もこんなに灰色じゃなかったし、雨も降っていなかった。

そりゃね、たしかに遠くの方ではわたがしみたいな入道雲がもくもくしていたけれど、あたしがいる地域周辺は真っ青な青空が広がっていて、真上にあった太陽の光が並木道の緑に反射してキラキラ輝いていた。

だから雨なんて降らないと思ったし、傘なんてものも当然持っていなかった。

第一、天気予報だって降水確率は10パーセントだって言ってたもん。


そういうわけで、日曜日の休日の今日。

あたしは7月中旬の今の季節に相応しい七分袖の紺色をした総レースチュニックに水色の刺繍(シシュウ)レーススカート。白のサンダルという、これから会う約束をしている彼が好きなかわいい系ファッションで自宅の7階建てのマンションを出た。


彼っていうのは言葉どおり、付き合って2年になるあたしの彼氏、麻生 慶介(アソウ ケイスケ)。

年齢はあたしよりもみっつ上の29歳。

慶介は若いのにやり手で、あたしがOLとして勤めてさせてもらっている大手企業貿易会社の次期社長候補さん。

そんなだから、彼は社員からも一目置かれている。



それに加えて容姿も完璧。

背の高さは180は軽くあるだろう。すらりとしたモデル体型。

襟足までに切り揃えられた漆黒の髪。

目は細くて切れ長。

すっと通った鼻筋に、薄い唇。

彼はとてもカッコいい人。