緊張の一瞬。
僕はアイツを見た。
(今日で決着をつける。)
僕は心を落ち着かせ、ボールを見つめた。
会場にいる全員が僕に−ボールに視線を向けている。
ピーッ
ついに笛が吹かれた。
息を止めて、僕は思い切り左角に蹴った――――。



それから5年後の今。
あのPKを見ていたスカウトマンからプロへの誘いを受け、この道に進んだ。
アイツも高校を卒業後大学に入りサッカーを続けていたが、
事故に遭い不幸にも5年前の今日命を落とした。

「お前が5年前に、俺のPKを止めていたら今の俺はいなかったよ…」
アイツに弔いの言葉をかける。
そして静かに目を開けると、おばさんが…立っていた。
「毎年ありがとうね…。」
「いえ…。昔も今も、俺のライバルはこいつだけです。では、失礼します…」
俺は軽くお辞儀をすると立ち去ろうとした。
「あの…。昨日時効になったの…、あの子の物が渡されたんだけど、これ…5年前にアナタに渡そうとしていたものみたい…受け取って下さるかしら。」
おばさんは鞄から紙を取り出し、俺に渡した。
「ありがとうございます。…失礼します。」
俺はもう1度会釈すると、その場を後にした。