ナツは、暫くじっと俺を見て、吹き出した。


「え、何? どうかした?」

 吹き出した意味が分からず、俺は首を傾げてナツに聞いた。


「だって、それ女の子の夢みたい。好きな人の第二ボタンを貰うって」

 クスクスと笑いながら、ナツは言った。


 確かに普通は女子だけみたいだけどさ……こういうのに拘るの。


「ナツは、あんまり気にしない? こういうの……」

 だとしたら、かなり恥ずかしいことをしたのかもしれない。


「ううん。気にしないっていうか、あたし、初めてだから。中学の時も高校の時も、男子はブレザーだったし、貰えるような人、居なかったから気にすることもなかったの」


「てことは、俺が初めてってこと?」


「……そうなる、かな? 少なくとも、こういう風に言われたのは初めて」

 そう言って、笑いながら、手を差し出した。


「貰ってくれんの?」


「だって、くれるんでしょ?」

 ほんの少し唇を尖らせたナツが、可愛くて、俺は笑った。


「へへっ……はい」

 差し出されたナツの手に、俺の第二ボタンを置いた。


「ありがとう」

 少し照れくさそうになって、ナツは言った。


「どういたしまして」

 俺はもう満足だった。

 ナツが、俺の気持ちを受け取ってくれたということだけで。


「あ、そうだ。旬、卒業おめでとう」

 ナツは思い出したようにそう言った。


「普通、こっちが先よね」


「あ、そっか。忘れてた」

 ナツに言われて、俺も思い出した。


 卒業したっていうのは頭でちゃんと分かってたけど、気持ち的にはあんまり実感がなかったっていうか、それがめでたいことなんて感じはなかった


「何それ」

 ちょっと呆れた感じでそう言ってナツはまた笑った。


「へへっ」

 俺も一緒に笑った。



 俺は、ナツと一緒にいると、それだけで笑えるようになっていた。