峰岸さんと歩いていて痛感した。抜群の美貌だとは思っていたけれど、まさかこれほどとは。路上でも駅でも、みんなが峰岸さんに目を留めていく。ホームの向こうからまるで信じられないものが視界を横切ったとばかりに二度見をする若者もいれば、神様にでも会ったかのように足を止めて拝む女性もいる。峰岸さんが雇ったサクラかと疑いたくなるくらい、峰岸さんを主人公に世界が展開する。

 一番多かったのはスマホで写真を撮る人だった。最初は気のせいかと見逃したものの、明らかに違った。すみませんが、とこちらも下手下手に薄笑いを浮かべてやめてもらう。私を傍観していた峰岸さんも、途中からは『ネットにアップするのはやめてね』と微笑を浮かべて協力しはじめ、相手をぽうっと赤面させていた。

 電車に乗り、空いている座席を見つけて座る。

「峰岸さんって外を出歩くたび、いつもこんなに騒がれているんですか」

「そうなのかな。意識していないけど」

 峰岸さんはにこにこしながら向かい側の席に座る男の子に手を振る。中学生くらいだろうか、学校名の入ったジャージ姿の彼はぷいっと目をそらし、耳を赤くした。
 瑛主くんがいちいち送っていた理由がわかった気がする。峰岸さんは危なっかしくて放っておけないんだ。素敵な外見でふわふわゆらゆらしていて、どこにでもついて行ってしまいそうだった。