亀田さんには近いうちに会わなければと思っていた。草野球に向かう瑛主くんたちと駅で別れたあとに連絡を入れるとすぐに返事があり、その日のうちに会うことになった。
 午後四時、繁華街の商業施設にある窓の大きなカフェで落ち合い、私は季節のフルーツケーキとアイスミルクティーを、亀田さんはガトークラシックとブレンドを頼んだ。

「仕事帰りで甘いもの食べたい気分だったからちょうどよかった」

 土日休みじゃなかったり不定期で仕事が入ったりするのはうちの会社と同じらしい。私と瑛主くんも明日の日曜は出勤日だ。

「あ、打ち合わせでコーヒー飲んだばっかりなのに、また頼んじゃった」

「あー、ついやっちゃいますよね。あとで振り返ると一日に五、六杯飲んでたり」

 そうそう、と営業あるあるを展開したところで、話は昨日の飲み会の件へ。瑛主くんとの仲を取り持つようお願いされておきながら、途中からの私の行動はそれが完全に抜け落ちていた。亀田さんがどこまで知っているかわからないけれど、陰で恨まれるのだけはごめんだ。そういうわけで、なるべく早く、それも顔を合わせて話せたらと思っていた。


「瑛主くん、やっぱり合コンなんか頼むんじゃなかったって言ってましたよ。私は瑛主くんが参加した時点でお役目を果たしたつもりでいたので、なんだか変だなあと思って。最初に私がいただいた話と瑛主くんの発言、食い違ってますよねこれ」

 ああ、と亀田さんは私の指摘を緩く受け流し、コーヒーに手を伸ばす。

「谷口くん、そんなこと言ってたんだ」 

「亀田さんと瑛主くんは大学のころからの知り合いだそうじゃないですか。だったら、私なんかあいだに噛ませずに直接話を持ってったらどうです? はっきり言って私、役立たずですよ。恋愛ごとの機微とか駆け引きとかさっぱりなので。協力できそうにないのでこれっきりにしていただけたらなと思いまして、今日はそれをお伝えしに参りました」

 よく言った、と自画自賛したくなる。亀田さんの営業力が発揮されるまえに言いたいことを全部言えた。私は気をよくしてケーキに向かった。マスカットが瑞々しい。ピオーネも甘い。

「うん、わかった。昨日の谷口くんを見ていたら、もう馬鹿らしくって……あなたに頼もうなんて気にはなれないよね」