次の日。


「小泉!はよー。」


 後ろから、声をかけられた。


 誰かなんて、すぐに分かる。


「せんせ……」


 あーっ、ヤバいヤバい。


 慌てて口を噤む。


 いつもの流れで話しちゃうところだった。


「んんっ」


 あたしは軽く咳払いをして、誤魔化しながら、教室へと向かった。


 誰が見てるか分かったもんじゃない。


 もしかしたら、実花さんのスパイがいるかも……


 でも、先生の声が聴けただけ、良かった。


 でも……


 先生と喋らないって、勇気いるな。


 「うわー!見てー、ラブレター♡」


 聞こえてきた、声。


 ただ、好きなだけでいい恋じゃない。


 相手を想って、苦しい選択をして。



 あの頃、有雅が好きだった頃と一つ違うのは。


 自分を捨ててまで、苦しい恋を続けてるってこと。

 大好きだからこそ、叶わない相手でも、守ろうとしていること。


 これから、頑張ろう。


 今は、苦しいけれど、いつか、先生と話さない日常に慣れる日が来る。

 そして、忘れられる日が来る。

 先生のことも、この想いも全て。


「小泉!ハァ……待ってって。おい、挨拶くらいしろって……」


 先生が、階段を上るあたしを止めた。


 いつかって、いつ?

 そんな日、来てほしくないよ。