「三十過ぎのオジサンが一回りも年下の女の子にデレデレになっちゃったというわけね」

 優二の話を聞き、志穂美はまず驚きそれから呆れた。彼も所詮そういう男だったというわけか。

「そんな花嫁学校しか出ていない世間知らずの女の子が、大人のエグゼクティブであるあなたにつり合うと思っているの? そんなに歳の離れた女の子と付き合って共通の話題があるわけ?」

「彼女といると楽しいよ。最初のデートでフレンチをご馳走した後、彼女は俺に絵葉書で礼状を送ってきてくれたんだ。なかなか奥ゆかしい子じゃないか。君がそんなことをしてくれたことがあったかい?」

 優二は憎らしいことを言う。

「あら、私たちが食事をする時はいつも割り勘だったじゃない。私は男女は平等だと思っているし、私にはそれなりの稼ぎもあるから男性におごってもらう必要がないのよ。私はその子と違って自立した女なのよ。人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!」

「君の言っていることは痩せ我慢だ。時には男に甘えてみせるのも女の可愛さなんだぜ」

「まあ!」

 だったら初めから自分にもおごってくれれば良いではないか志穂美は思った。

「時にはって言うけど、彼女は無職だからいつもお金が無いのよ。おそらくこれからもね。そんな自立していない女の子と結婚して、何でもかんでもお金を出してあげるつもり?」

「ああ、俺にはその甲斐性があるよ。それに、彼女は君みたいなブランド好きじゃない。歯科医の俺と結婚するのだというのに、家庭に入ったら慎ましく生活したいと言うんだ。なんて健気な子じゃないか!」

「あのねえ」

 志穂美は心底呆れる。筋金入りの花嫁学校とやらに通う学生なら、計算され尽くしたぶりっこな態度で接してくるはずだ。玉の輿を目指す特殊な花嫁学校に入学する時点で、考え方が尋常ではないではないか。女の表裏にも気づかないなんて、やっぱり優二もアホな男の一人だったらしい。

 その娘だってどうせ結婚してしまえばこっちのもので、手のひらを返したような態度で贅沢な暮らしを始めるだろう。働きもせずに昼間はテニス教室に通い、夜は高級惣菜でお茶を濁す。週一回は高級レストランで外食をし、年に二回は海外旅行に出掛ける有閑マダムを目指しているのだ。