前の話で少し出たかな…

おじいさんが渡せなかったプレゼントの話しをするね。



僕はネジ

サンタおじいさんの工場で働いている。

おじいさんは毎日毎日みんなの願いを少しでも叶えたいと

毎日真っ黒になって頑張ってる。

そんなおじいさんはもう、100歳を超えている。

今も1人僕の前で頑張ってる。

おじいさんはここに来てから、いろんな国に行った。

戦争している国にも行って傷だらけでトナカイと帰ってきたこともある。
まだ行ったことない街も…願いが届かない場所もある。

人々の願いは手紙になってポストに届く。

おじいさんはその願いを叶える。
うれしそうに手紙を読んで笑顔を集めに行くんだ。

そう…

おじいさんが何百年も生きているのには秘密がある。



おじいさんはサンタになる前に、結婚していて生涯を共にした女性がいた。

昔も笑顔でニコニコしていたみたい。

あとは仕事仕事の生真面目な人だったみたいで、プレゼントも渡したことがなかった。

だけど、優しいおじいさんだから、2人はずっと仲良く暮らしていた。

その女性もおじいさんのことが大好きで、ずっと一緒にいたいと思っていた。

ごく普通な…いや貧しいけど2人は幸せだった。

だけどその時間は長くは続かない。長いようで短い…2人とも若かったのに幸せに暮らしてるうちに60を過ぎて、少しずつ女性に元気がなくなっていった。

おじいさんは若い時から戦争に兵士として集められたりしてなかなか2人で過ごす時間もあまりなかったみたい…。

戦争が終わってからはずっと働いて働いて…賃金も安かったから毎日遅くまで働いた。

彼女には食べ物に不自由のない暮らしをしてほしかったから

だから他には買う余裕がなかった。
彼女に着せたい服や指輪もたくさんあった。

買えなかったんだ…

働いても働いても…なかなかお金は貯まらなかったんだよ



女性はおじいさんといることが一番の幸せだったから何も望んでなかった

唯一望んでいたことは、もっと一緒の時間を過ごすこと。

おじいさんが大好きだったんだね。

2人とも少しずつ年を重ねていって、おじいさんは初めてのプレゼントを買うお金が貯まった。

少しずつ貯めてやっと…

おじいさんは指輪を買ってあげたかった。当時は高くてやっと買うことができた。

ずっと前から決めてた指輪

仕事帰りに

もう少しもう少し!

って眺めていた指輪

指輪は今おじいさんが持ってる

そう、渡せなかったんだよ。

プレゼントを買って帰ると、結婚して何十年も経ったから、おばあちゃんになった女性は病で倒れていた。

治療はできなかった。

おじいさんは医者に薬を頼んだんだ…だけど買えなかった。当時は薬が少なくて高価なものだった。

嘆いた…悔しかった

たくさん泣いた。

彼女の前では笑顔だったけど、ある日涙がでた。

それを見て彼女は言った

「今までずっとこの家のために働いてくれて、2人で笑って時には喧嘩もして、いつでも幸せでしたよ!」

( ただ、もっと一緒にいたいな…)

それが女性の願いだった。

おじいさんのあげたいものと、女性の欲しい物は違っていたが愛にはかわりなかった。

おじいさんは指輪の入った箱を握りしめて医者のところに行った 。

指輪と薬を交換してほしいと言ったがそれは無理だった。

売りに行ったが買った値段の半分以下だったみたいで、彼女の治療費にはならなかった。

悔しかったと思う。

やっと渡せると思ったプレゼントなのに…

それから2人で居る時間も前よりは増えた。
おじいさんも彼女も幸せな時間をすごしたが病気がよくなることはなかった。

おじいさんはまた働いた。前みたいになかなか仕事もなかったけど、仕事があるときには一生懸命…時には若い人たちに罵られても黙って一生懸命働いた。

治療費は高かった…景気も悪くてお金を貸してくれるところもなかった。

家で待つ大好きな人のために働いたけど…間に合いそうにはなかった。

おじいさんは薬も買えない自分を悔やんだ…

そしてそんな時代を憎んだ…



おばあちゃんになった彼女は自分を責めないでと言った…そして自分の願いをおじいさんに伝えた。

「ひとつだけ欲しいものがあります」

「あなたと過ごす時間です。」

彼女といる時間はあまり残されていなかった。

その時におじいさんは初めて知った。彼女の欲しかったことを…。

ものじゃなかった…。


おじいさんは指輪の話をしようとした…

きっと最初で最後のプレゼントになると思ったから渡したかった



指輪の箱を取り出そうとした時に

突然目の前が暗くなった。

街では噂になっていた魔女がそこにはいた。

何かと引き換えにひとつだけ願いを叶えてくれるらしい…

ただし願いの代償は大きかったから…魔女と言われるようになった

おじいさんの目の前の魔女は言った

「彼女を助けてもいい。彼女の病は治す…永遠の命ではないが苦しまないでいい。」

「その代わり…その指輪をもらう…」

おじいさんは迷わなかった…大好きな人と過ごせることを選んだ。

それが愛する人の願いだとやっとわかったから…

辺りが明るくなった時には、病は治っていた…

…その後2人はおばあちゃんが天国に行くまで幸せに暮らした。

渡せなかったプレゼントと引き換えに…。



おばあちゃんが亡くなる少し前に、おじいさんはやっぱり指輪を渡したいと思うようになった。

ずっと自分と一緒に居てくれた感謝の気持ちをこめて…



魔女は再び現れた…

おじいさんは指輪を返してもらえないかっと言ったがそれはできないと言われた。

…引き換えにするものが必要だったがおじいさんには何もなかった。

おじいさんは自分の残りの時間を差し出すことにした。


魔女は断った。

…おじいさんにもそんな時間はなかったから。

そんなおじいさんを見て魔女は言った…

魔女はおじいさんの真面目さや優しさを理解していたからだと思う…

「わかった。指輪を返そう。その代わりにひとつだけ私の願いを叶えて欲しい」

予想外だった…魔女の願い…。どんな悪いことか怖かったが思いもよらなかった。

「私は今までたくさんの人に与え何かを奪ってきた…それは引き換えではあったが多くの人には大きな代償だったから…。

それは魔女に決めることができないことで、引き換えにしないと叶えられなかった。

だれかの願いを叶えたかった私がいつの間にか魔女と呼ばれるようになってしまった。

私が願いをあげるだけでもよかったとずっと思っていたのに…できない決まりなのだ」

「だから…」

魔女の願いは純粋なものだった…

引き換えにしないといけないのは魔女自身でもどうにもできないこと

だから願いを託したかった…

その願いをおじいさんに話した。

おじいさんは迷うことはなかった。

…魔女の願いを叶えることと引き換えに指輪を受け取った。

おじいさんは…大好きな人が天国に行く直前に指輪を出した…

その日も働いて真っ黒で帰ってきて指輪を箱からだして…

彼女へ見せた

彼女は意識が薄れゆく中でおじいさんを見つめて…涙を流して微笑んだ。

「ありがとう」

おじいさんが最後に聞いた言葉だった…

彼女にはめた指輪は少し大きくて…きっと指が細くなったのかな。

…彼女には指輪は見えなかったんだ。。涙が溢れすぎて。

おじいさんへの精一杯の気持ち…一緒にいた時間へのありがとうだった

おじいさんが渡したかったものはね、渡せなかった…


おじいさんはしばらく何も手につかなかった。大切な人を失ったことが大きすぎた。

彼女へのプレゼントをやっと買って…だけど今度は治療費が必要になって指輪を渡せなくて…働いて働いて、足りなくて…
魔女と契約した。

指輪と、彼女の病気を治すことを引き換えに

それから指輪を戻して貰う為にまた契約した。

魔女の純粋な願いと引き換えに…




そんな疲れ果てたおじいさんの前に

しばらくして魔女が現れて指輪を持ってきた…

彼女にはめた指輪と同じ物だった…。彼女の指にはめたはずなのに…。

魔女が同じ指輪を持ってきたんだ

渡したけど渡せなかった指輪。見せることはできたけど、気がついてなかったから…

そんな2人を気遣ってなのか…

2人はどこかで繋がってるって言いたかったのか

魔女が見せた優しさなのかもしれない。

それを見ておじいさんは、魔女との約束を果たすために…誰かの願いを叶えるために

おじいさんは何百年も生きてる。

おじいさんのネックレスには大好きな女性と同じ指輪がある。

魔女との契約はサンタになることじゃない

引き換えじゃないプレゼントを渡して欲しい。
自分にできなかったことを
たくさんの人に…

自分の願いをおじいさんに託した。

人間を信じない魔女はおじいさんを信じて…

それからおじいさんは、この場所に工場を作って自分のような思いをしないでいいように…少しの願いを叶える手伝いをする。

魔女の願いだけじゃなく自分の意思で…。

クリスマスまであと少し

今日もまた手紙が届いる。
おじいさんは時々指輪をギュッっと握って、汗を拭ってニコニコうれしそうにそれを読む。

だれかの笑顔を想像しながら…ワクワクしてる。



僕たちは風の噂で聞いた…本当か嘘かわからないが、思いもよらない一通の手紙が届くことをまだおじいさんは知らない。

おわり。