ここは1年中雪の降る場所

工場と小さな家が一軒あって

初老の男性が1人で暮らしている。


この工場にはたくさんの手紙が届く

おじいさんはその手紙を一通一通読む

うれしそうに

メガネをかけて白いヒゲを触りながら

工場は1年中動いていて休むことはない

僕のことは知らないよね。

僕はネジ、ほかにもランプや暖炉…友達はたくさんいる。

だけどおじいさんはずっと1人

トナカイに餌をあげて、ソリを磨いて、服を洗って暖炉のマキをわる。

手はカサカサしてる。

暖炉の前で手紙を読んでは工場に行く。

作ったプレゼントを届けるために

1年に1度だけ街に行くんだ。

素敵な服を着てね。


何百年も見てきたから…おじいさんは100歳はこえてるかな

僕たちしか知らない、そのおじいさん話…



おじいさんはいろんなものに声をかける

例えば…

部屋のランプには

「今日も部屋を照らしてくれてありがとう。」

僕たちネジには

「今日も一日工場を支えてくれてありがとう。君たち一本一本があるからこの工場が動く。」

…そう言って話しかけてくれる

そんな優しいおじいさんも最近は椅子に腰掛ける回数が増えた。

椅子にも話しかける

「君がいるからこうやって休むことができる。ありがとう。」

椅子の話ではおじいさん、最近少し軽くなったって…

おじいさんは1年に1度オシャレをする

それ以外は分厚い手袋をして古くなって破れたところを何度も縫い合わせたツナギを着てる。

工場の崩れた部品をなおしたりもする。

山に行ってはマキを割り、木に…
「今年も必要なぶんだけもらいにきた、少しわけてもらえないかな。」

そう話しかける。

箱にいれる大切なものを作るために汗びっしょりになる

そんなおじいさんがみんな大好き。

そして心配…

1人でさみしい?
体は大丈夫?
疲れてない?
少し休んだら?

みんなそう言ってる。

この場所にはじめておじいさんが来た時にはだれもそんなことを言わなかった。

だけど、何年も何年もおじいさんを見てきて僕たちは何かできないかと考えるようになった。

山の木々はおじいさんに割りやすい木を見つけやすいように道を作る。

暖炉の火はおじいさんの体をがんばって暖める。

雪はおじいさんが埋もれないように歩きやすくするために固まる

工場の僕たちは、部品一つ一つに優しくしてくれて、長く使ってくれるおじいさんの期待に応える

みんなおじいさんが大好き。

少し想像と違うかな?

みんなの知ってるおじいさんは明るくて元気な陽気なおじいさん?

それは当たってるかな。

僕たちが見てるおじいさんは


顔も手も服も真っ黒にしてる。
優しい顔で手紙を読むおじいさんだよ。

おじいさんは出来上がった箱におまじないをかけるんだ

そして白い袋に入れてみんなに届けてる。

おじいさんは時には寂しい表情を見せる。
今でも工場はフル稼動…


それでも手紙が届かない地域もあるんだよ…って

手紙を送ってこないんじゃなくて、送ることができない。

これは内緒だけど、おじいさんが手紙をもらうのは子供だけじゃない…大人からの手紙もある。

おじいさんはそれに応える。

大人からの手紙は自分の子供に届けて欲しいっていうのがほとんど

おじいさんは

「願いを叶えるのは自分自身。それを自分には少しだけ手伝うことができる…小さなことだよ。」

って言う。

そんなおじいさんが深く傷ついたことがある。

手紙にはこう書かれていた

「わたしの住む村では鉄砲が必要です。
お父さんやお母さんを守るために鉄砲がたくさん必要です…。そうしないと家族を撃たされます。

そしてわたしは売られて兵士と呼ばれる…友達もそうしていなくなった。

家族を殺させて村に戻れなくさせた。」

そんな内容だった。

おじいさんは深く傷ついた…。椅子に座って落ち込む。

おじいさんには代わりののオモチャしか作れなかった。

おじいさんはね…

渡したプレゼントを見て子供たちが喜ぶところを見たことがないんだ…

そっと置いていくから

おじいさんはね

手紙に書かれた願いは叶ったかな?!

喜んでもらえるかなっていつも思ってる。

本当は喜んでる顔が見たいんだよ…

それでも一年のほとんど真っ黒になって
寒いのに汗びっしょりで…頑張ってる。

そして、うれしそうに一年に一度だけ出かける。
どんなに疲れていても夢を壊さないように…

そんなおじいさんが鉄砲を作ることなんてできないよ…

大人からの手紙もあった…戦車が欲しいってさ

守るためじゃなく奪うために

毎年そんな手紙が何通かはくる

そのたびにおじいさんは落ち込む…

「だれもが子供の頃に夢を持ってた、それが大人になると子供の夢を壊してしまう」

悲しく呟く…

それでもおじいさんは何かを届けようとする。

おじいさんは小さなおもちゃを作って箱に入れる…悲しい顔をして

そしておまじないをかける。

手紙を送ってくれる地域が平等でありますように

子供たちが笑って暮らせますように

って

子供の笑顔は未来への希望なんだって。

そうそう…

ここにおじいさんが来たときはもっと元気だった。

僕はおじいさんと一緒に来たからね。

おじいさんはまだ使える道具や部品を運んでこの工場を作った。

ネジ1つでも使える物はつかった。

毎朝寒い中、1人で作った。

みんな笑ってたけどね…本当に作った。

それがおじいさんの願い事だった。

願い事を叶えることが

おじいさんの願い事。

面白いおじいさんでしょ。
他人の夢を叶えることが自分の願いだなんて…。

10年…工場を毎朝1人で作りに来ていた。

おじいさんは僕たちみたいにまだ使えそうなもので作った。

捨てられた僕たちに新しい仕事をくれたんだ。

工場が出来てから

最初は近くの子供にプレゼントを作っていた。

うれしそうにしてた。

いつの間にか手紙が遠くから届くようになって

おじいさんはたくさんの人の願い事に応えてきた。

手紙は大切にとってある。君の手紙もあるんじゃないかな。

子供の時から大人になってもずっと手紙をくれる人もいる…おじいさんは覚えてるよ。

成長を喜んでる。

今も真っ黒になりながらプレゼントを作ってる。

そしておまじないをする。

おじいさんはね
世界中のどんなところにも届けたいと思ってる。

何度かトナカイと怪我して帰って来たこともあった。

僕たちはもういかないでほしい…って思ってる

だけどね、子供に罪はない…どこにでも届けるといいはるんだよ

おじいさんが怪我してるのを見ると人間が嫌いになる

それでもおじいさんは行く。

トナカイと空を飛んでく

おじいさんが安心して届けられるようになるといい…。

おじいさんは子供の笑顔が大好き

…無邪気な手紙が大好き。

悲しい手紙はおじいさんを寂しくさせる

これが僕の知ってるおじいさんの話さ

ネジの僕が話せるわけないって?!
ここは夢で溢れそうな場所なんだ
僕たちとおじいさんと、みんなの夢でさ

信じられないよね、どこにでもある一本のネジだから
取りかえることも捨てることも簡単にできる。

だけど取りかえたり捨てたりできないこともある。そんなものが近くにないかな。
おじいさんみたいに大切にしてくれたらうれしいな。

おじいさんは真っ黒になって今日も工場で1人で誰かの喜ぶ顔を想像して
うれしそうに機械を動かす。

大きくても小さくても誰もが望みを持てる世の中が来るのをおじいさんは待ってる。

そして子供の頃の気持ちを忘れて欲しくないともね…

プレゼントはできれば、ずっと大切にしてほしい。

僕たちもトナカイも頑張ってるからさ…

今年はおじいさんの願い事が叶うといいな。

おじいさんにも一つだけ渡せなかったプレゼントがある…

おっと長くなるから
それはまた今度…

手紙が届いてるからみんな頑張らないとね!

おじいさんは今も箱に誰かの願いをつめてるよ。

これが僕の知ってる汗びっしょりで、ニコニコして1人働いてるおじいさん

そう、みんなも知ってる
白いひげ、赤い服、トナカイ、ソリ…わかるかな?

特別な日に素敵な服で夢を運ぶ

だけど僕が見てるのは

真っ黒な顔した一生懸命なサンタクロース

優しいおじいさんなんだ。