-ベンッ……
三味線をひとつ、鳴らす。
それだけで、場が水を打ったように静まり返った。
外で鳴っていた風の暴れる音も、耳には入らなくなる。
「…すぅ」
三味線を手にする彼女の息を吸う音が部屋に響いて。
吐く息と共に、三味線の乾いたゆっくりとした音が部屋中に響きわたった。
誰にも邪魔されない、邪魔できない空気をつくり上げると、弦を弾く手を速めた。
お座敷向けではない音楽で、部屋にいる人々は不思議な感覚に陥る。
京の中でここだけが、違う世界で。
すべての苦しみを忘れ去るくらい、魅せられる。
最後の一音が鳴り終えても、誰も一言として話さなかった。