――――夢を、見た。幼い頃の夢だった。
「おかあさん、おとうさん」
「どうしたの、―――」
優しい声と、手。
母と父と、楓と―――"わたし"。
そこには愛音も哀音もいなかった。
「……ん……」
ゆっくり重い瞼を開けると、茶色い綺麗な木の天井が目に入った。
体を起こすとあちこちに痛みがはしり、顔を歪めた。目をやれば、包帯が巻かれて手当がされていた。
ここはどこだろうと考えようとして、視界に入った人物に、それをやめた。
黙ってこちらを見つめる彼は、哀音が目を覚ましたことに気づいているようだったが、何も言わなかった。
しばらくの沈黙ののち、前川が口を開いた。
「……ずっと」
「はい…?」
「おかあさん、おとうさんと言っていた」
「……そう、ですか」
前川は立ち上がり襖を少しだけ開けて、「目を覚ましました」と短く報告した。
それから、げんこつ一個分ほど襖を開けたまま、哀音に近づい短刀を差し出した。
「ありがとうございます」
受け取り、傍らへ置く。
「捕縛するために助けましたか。悪いとは言いませんが、機会は幾度となくあったはずですよ」
「知らせたいことがあったから、助けだだけだ。それに、私を助けたせいで死なれても、目覚めが悪い」
「知らせたいこと?」
「……妹が生きている」
「……何故あなたがそのようなことを?」
怪訝そうに顔をしかめると、ある名を出した。