2007年、9月4日。

「暑い…」

大阪の夏はまだまだ続いていた。南原誠、18歳。高校3年の誠は、進路に悩んでいた。

「あーあ。俺将来、何なろかな。まっ、今日あたり先生にでも聞いてみよかな」

誠は学ランに着替えると、黒のスクールカバンを片手でヒョイと肩に乗せて部屋を出た。

「行ってきまーす!」

「はいよ」

母の秋子にそう言うと、玄関の白い扉を開けて家を出た。


誠は父である春男と秋子の三人暮らしで、家は裕福でもなければ、貧乏でもない。ごく普通の一軒家に住んでいる、ごく普通の高校生だ。

少しワルガキで、髪は校則違反である茶髪に染め、左耳には銀のピアスをつけている。眉毛は細く剃って、きっちり整えてある。
誠は春男に似てハンサムな顔立ちをしていて、モデルスカウトも2回受けたことがある。だが、なぜか女の子にはモテない。


誠は自転車にまたがると、真っ直ぐなアスファルトを駆け抜けた。誠の茶色の髪がなびく。

家から少し進むと中学校が見えてくる。そこのグラウンド沿いを右に曲がると、住宅街に入る。この辺はいつも小さな子供が遊んでいる。今日はかくれんぼをしているのか、草むらに男の子が潜んでいる。

住宅街を真っ直ぐ10分程行くと、細い路地に入った。この道は学校への近道で、いつも誠が使っている道だ。

路地を抜けると、誠の学校が見えてきた。校舎付近にはパラパラと生徒が校舎に入って行く姿が見える。

校門をくぐるとすぐ左に木製の古びた屋根の駐輪場がある。誠はそこに自転車を停めると、カバンを持って校舎に向かって歩き出した。

「おはよぉ!」

そのとき、その声と同時に後ろから誠の頭が思い切り叩かれた。

「痛!痛いなぁ、誰や!」

と、誠は後ろを振り返った。

「何や誠、元気やんけ。お前、結局進路はどうしたんや?」

「あぁ…麗菜かよ…」

麗菜とは女っぽい名前だが、男だ。誠と同じ高3で、中学校からなぜかずっと同じクラスだ。髪はロングの金髪で、両耳にピアス。鼻が高く、目が潤っていて、漫画に書いたようなモテ男である。