(南斗晶)

「うちの息子に何するか!貴様ぁぁぁッ!!」
鋭い声が辺りに響きました。


驚いて上を見ると、空から空手着を身につけた一人のおじさんが、飛び蹴りの構えをして、私のお父さん、アトミック南斗に向かって落下してきました。
「うおっ!?」
お父さんは腕をクロスしてガードの構えをとりました。
飛び蹴りが、当たりました。


どごっ。


鈍い音がして、お父さんの巨体が後ろに吹き飛びました。
「嘘っ!」
私は口を覆って目を丸くしました。
お父さんが、蹴り飛ばされたのです。
熊に殴られても、ぴくりとも動かなかったお父さんが、一トントラックにひかれても、平然と立っていたお父さんが、たった一発の飛び蹴りで吹き飛んだのです。
地面に倒れたお父さんも、呆然としています。
この空手着のおじさんは、一体何者なのでしょうか?


「チェストーーッ!!」
おじさんが倒れたお父さんの顔に向かって、拳を叩きこもうとしました。
その時です。
「やめろ!親父!」
健介君が、駆け寄って叫びました。
おじさんは拳を寸前で止めました。そして振りむいて聞きます。
「健介、怪我はないか?」
「ああ、大丈夫。それよりも、親父、なんでここに?」
私は、おずおずと二人の会話に割りこみました。
「あの、健介君、このひと、健介君のお父さんなの?」
「ああ、紹介しておこうか。代々木倍達。代々木空手道場の師範で、おれの父親なんだ」
「そ、そうなんだ」
私は、倍達さんの顔を見ました。
五十代くらいの、口髭をたくわえた、ダンディなおじさまです。言われてみると、目元が健介君に似ている気がします。
「君が、南斗晶さんかい?」
倍達さんが、聞きました。
「あ、は、はい!」
あれ?なんで私の名前を知ってるのでしょうか?
私の疑問を察したのか、倍達さんは答えてくれました。
「道場生の角田ちゃんに聞いたんだよ。今日、健介が同級生の女子と山へ行くってね。なんでも健介が素晴らしいと認めた女性だそうじゃないか。どんな娘か興味を持ってね。こっそり二人のあとをつけてきたんだ。」