アカリ《サイド》

「まって!」

いつもは叫ばないのに大声で
キツネを呼び止めたのは深夜だった。


ゆっくりと、振り返ったキツネ。

風にあおがれて着物の裾が少し捲れた。

長い髪が扇のように一瞬、広がる。


ほんとに、キツネは別の世界の人みたい。


神聖な雰囲気、美しすぎる所作。

凛とした佇まい。


きっと彼女に勝てるものなどないだろう、
そう思わせるオーラがある。


「なにかしら?」

キツネの声に一瞬、息が止まる。

怖いわけではない。

ただ無意識に畏れてしまうのだ。

「、貴女はなんで」

「ねぇ」

深夜の言葉を遮る。

深夜は何故かキツネに興味を持っている。

もちろん、みんなキツネの正体を知りたいと思っている。

でも深夜はそれ以上を知りたがる。


「私が来たこと、話したこと、」

キツネが一人一人の顔を見ていく。

キツネと顔を合わせるだけなのに。

体が動かない。

動くことを拒否するんだ。


「だれにも、言わないでね?」

そういって出ていったキツネは。

顔も見えないのに妖艶で綺麗だった。


パタン。

ドアが閉まる音がまるで、

キツネとの接触に蓋をしたようだった。



やっぱり、キツネは不思議だ。