暗い、暗い。
いつの間に日が落ちたのか、満月が窓から見えた。
途中、母親からの呼びかけがあったような気もするが覚えていない。
ベッドの上で小さく縮こまったままどのくらいの時間がたったのだろう。
そう、母親からの呼びかけは夕食のことだった。
それに答えることもせずに私は……

「かなこ」

いきなりの声にびくっと震える体。

「……入るからね」

そう言って入ってきたのは姉。
天神学園高等部二年、五十嵐かなこの姉、五十嵐おんこ。
大学に進み、五十嵐工務店の棟梁にもなって落ち着いた姉は袴姿をやめて父のように着物で過ごす事が多くなった。
口調も今では昔を思い出すのが難しい。

「暗い。あなたはいつもそう。いっぱいいっぱいになると縮こまって必死に堪える。他のことを全て止めてね」

そう言いながらかなこが縮こまっているせいで広く空いているベッドへ腰かける。

「母が心配してる」

……おしゃべりだった姉はもう必要以上に話さない。
子供ではないのだから。
棟梁なのだから。

「……はぁ。聞いたよ、生徒会長になったんだって?」

静かな口調で、家族に話しかける暖かさで発せられた言葉。
けれどもその視線はかなこをとらえて離さない。

「……………………最初は」

「うん」

「最初は軽い気持ちだったの。みんなが立候補するって言うから。先輩が立候補したらって言うから。折角生徒会にいるんだから、記念に生徒会長に立候補するのもありかなって」

「それで?」

「あ、新しい生徒会長にっ、負けたって、生徒会長頑張ってって、そう、言うつもりだったの」

部屋は暗く、布団に包まれたかなこの表情は読み取れない。
けれどその声が湿っているのはわかる。

「でも、あなたは生徒会長に選ばれてしまった」

こくん、と揺れる布団。
その布団の塊、中身のかなこごとおんこは抱き締める。

「それであなたはいっぱいいっぱいになっちゃった。時間も忘れて、他のことは全部置いといて、そのことだけを考えてた」

ぎゅっと抱き締めた布団から中身が飛び出しておんこにしがみついた。
声を押し殺して、しゃくり上げながら泣いていた。