「……瀬野」



長身のオトコは
すれ違っただけの私を
おもむろに呼び止めた



「……なにか」



朝の日差しを受けた
白衣が眩しい。
彼にも、私の白衣は眩しく映ってるのだろうか。



真っ直ぐな私の視線を受け止めて
彼は狡猾な笑みを浮かべる



「……好きだよ」



その台詞と共に
ちらり、と彼の左手薬指をみる



朝から、病院のド真ん中で
なんてやつだと思った



「……私も、大好きですよ。
五十里せんせ」



すると彼は
恍惚とした笑みを浮かべた。



「……知ってる」



それだけ言い合って
私たちはまた相手を振り返ることもなく、すれ違った。



………今日は、
エイプリルフール。



上辺だけの嘘。



親友の旦那なんか、誰が好きなわけあるか。



……そう、
心の中でひとりごちる。



この日ついた嘘は、ただひとつ。



彼ではなく
自分自身への、嘘だけ。