平穏な日々だった。


それなのに、事態が変わったのは、
和臣の勤める会社の工場が山口に移転するのに伴い、研究所も移転することになったからだ。



美梨は知らない土地に行く決心がつかず、とりあえず和臣に単身赴任してもらうことにした。


半年前のことである。



一人マイホームに残った美梨は、ネイルやエステや習い事では、時間を消化できなくなった。



綺麗にしていても見てくれる人がいなければ意味がない。



美梨は、新しいことがしたくなった。



パートにでることにした。




パートの時給は850円。

中堅の建築会社での事務の仕事だ。

その会社は自社ビルを持ち、JRの駅から20分ほど歩いたところにそれはあった。



パソコン入力や来客のお茶出し、
コピー取り。

ブランクの長い美梨でも出来た。



そんな時給で働いているのに、稼ぎのよい旦那がいる美梨の長い髪は美容室でのトリートメントが効いてサラサラツヤツヤ。


爪はネイルアートを欠かさない。


幼な顔の美梨はとても32歳には、
見えなかった。

20代半ばに見えた。