美梨は現実に引き戻された。

……もう、本当に涼太とはおしまいに
しなければならない。



涼太の部屋で小さなテーブルに向かいあって座り、美梨は、
別れ話を再度持ち出した。


「涼太、ごめんね。
やっぱりもう、逢えない」


決して和臣は鈍感な男ではない。

和臣が家にいながら、涼太と付き合う
ことなど出来なかった。


「どうしても駄目なんだ…」


涼太はとても辛そうだった。
普段、飄々とした涼太がこんな風になるのは、美梨も心苦しかった。


美梨と付き合う為に、涼太はそれまで付き合っていた恋人と別れた。

それなのに、美梨は何も失っていない。
その不公平さは美梨にも分かっている。


「分かったよ…」

涼太は呟いた。


なんとか穏便に別れることが出来そうだと、美梨は胸を撫で下ろした。


「別れるのに、一つ条件がある!」

いきなり、涼太が真剣な顔で
言い出した。

「…なに?」

美梨は恐る恐る聞いた。

「お別れ旅行しよう。
それで美梨のこと、きっぱり忘れるわ」

涼太は両手を差し出し、
テーブルの上で美梨の両手を握った。