「───そりゃ惚れたからでしょ。
その、偉そうで失礼な言動だらけの男に」


「は!?」


店内にそんな間の抜けた声が響いたのに気付き、あたしは慌てて自分の口を塞いだ。


ここは、デパートにあるメンズブランドのフロア。
迷惑をかけておいて、ハンカチを洗って返すだけじゃ気が引けたから、お詫びに新しいものを買おうと思って仕事帰りに沙織に付き合ってもらっていた。


あたしは不審そうにこっちを伺う店員に愛想笑いを浮かべてごまかすと、隣で品定めをしていた沙織に小声でまくしたてる。


「変なこと言わないでよ。
あたしはそんなに悪趣味じゃ…」


「でも、好きでもない男のためにそんなに一生懸命選ぶ?」


沙織はあたしの顔を見てくすくすと笑う。


「それは…。
選んだものを、センスがないとかケチをつけられるのが嫌だからで…」


否定はするものの、自分の心境の変化に一番戸惑っているのは間違いなくこのあたしだ。
だって、今まで彼氏へのプレゼントだって、こんなに真剣に悩んだことない。


「ここ数日、あんたの口から小泉部長の名前しか聞かないわよ。
良かったじゃない。自分が潜在Mだって分かって」


沙織ってば、他人事だと思って好き勝手言うんだから。