「アユ芽ちゃん」

なぁに。

そう言って美少女が振り返った。

ぱっちりしたお目々に、透きとおるような白い肌、明るい髪の色が、細くて可憐な首によく映えている。


美少女はクラスの一番前にあるわたしの席まで来ると、美しい顔をにぃ~と歪ませた。

「~っお前はほんまにかわええのぉ天使だのぉマシュマロだのぉ」

スベスベのホッペをわたしのホッペにスリスリさせてくる。


「おはよう、アユ芽ちゃん。今日は今日とてヘンタッ…不思議ちゃんだね。」


「おはよう、ミミ子。今日は今日とて天使だね。」


チュ~とか言いながらピンク色の唇が近づいてくるのを、かろうじてぶちゅうっと手の平で受け止める。


わたしが新崎会由芽、通称アユ芽ちゃんと出会ったのは、この明橋女学館の入学式の日のこと。

まだわたしが自分の身長の伸び率に望みを抱き、牛乳朝昼晩をかかさず、瞳を明日への期待で輝かせていたあの若かりし日。

誰よりも早起きなわたしは誰よりも早く学園にたどり着いて、まだあいていない正門の前で小さくむくれていた。


その時、わたしの脳裏に現実より一足早い日の出が現れた。あまりの眩しさにわたしはううっとうめいて目を細める。


しかし、ようく見るとその朝日の光は妙に青白く、へにょへにょしていた。そしてようく見ると、(いや、見なくても)それは、懐中電灯の光なのだった。


しかししかし、懐中電灯の持ち主は尋常の人ではなかった。


(…女神降臨)


チャりらちゃら~り~と頭の中にBGMが流れる。

その人は美しかった。神々しいまでの美しさとはこういうことを言うのだと、わたしは新たな悟りの境地をひらいていた。


わたしは後光に気圧され、思はず後ずさった。


ジャリっとコンクリートと砂のすれる音がする。


わたしの存在に気がついたその人は、艶やかに微笑んだ。


わたしの胸がどきんとときめく。


美しい御仁はまるで女神のそれのような白く細い腕をおもむろに掲げ、自らの美しい顔を懐中電灯で照らし出した。


そして言い放った。


我らの歴史に刻まれし名言第一号である。

とくと聞かれよ。







「~ウラメシぃーーーーーーーーー!!!」




……現在に至る。