「好きよ」
  好きだよ。と応える

「好き」
  わかってる。

「好きよ」
  愛してる。と応える

「好き」
  うん、わかってる。


  と、何度目かわからない
  『好き』と『好きよ』のループ

  僕はここから抜け出せない。


「好きよ」

  優しく
  笑ったような
  彼女の声に
  ただ、耳を傾けていた。





最近 知識人の間で流行りだした
某機械というものを
僕は借金をしてまで手に入れた。

(イチから設定すれば3次元の人間を2次元で表せるらしい)

しかし非知識人の自分には やはり
使い方なんてさっぱりわからなかった

羅列するアルファベットに
辟易する反面
これを達成したらと思い描いて

震える手で、[Enter]を、押した。


そうして
本来ならばこの黒い画面には
在りし日の彼女が映るはずだったのだが

  僕はどこかで間違ったのだろう。

液晶は真黒のままであった



絶望の淵を見た自分を
(居もしないはずの)神は
哀れにでも思ったらしい


使い古したPCから
懐かしい声がした。

『好キ』と。


(……………は、)


フリーズする頭に
柔らかい音は侵入する。

気づけばキーボードを濡らしていた。


それからしばらく
飽きずに虚像にすがった。

画面は真黒だったが
彼女の声だけは
たしかにそこにあったのだ


もうしばらくしてからは
繰り返しにやや嫌気がさし
昔のように、海に沈んだ彼女の心を想った。


──彼女は海に沈んでいるのだ
──醜い姿で浮いていたアレは彼女でない





  だから僕は今日も
  実体のない彼女にすがる。


「好き …好きよ」
 僕は あいしてるよ

「好きよ …好き …好きよ」
 うん、わかってるよ

「好き …好きよ …好き …好きよ …好き」
 …あいしてるよ


「好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き …好きよ …好き 」






  …うん。
  もちろん、わかってる、よ。

  そう言うように仕向けたのは
  僕自身だからね。