ようやく首を縦に下ろす。

陽平の言葉は胸の奥にまで染みわたっているというのに、まだ信じられない。

それでも、意思表示をしなきゃと思い、こくこくとうなずく。

だけど、うなずくしかできない。



陽平は少しかがむと、小ぶりの紙袋をテーブルに置く。

深みのある真紅に、目立つゴールドの優美なブランドロゴ。


待ちあわせてここに到着した頃には、手にしていたのはビジネスバッグのみ。

そんなものは持っていなかったはずだ。

食事が終わってデザートが供されるまでの間に、私がメイク直しに立った隙を狙って、準備したんだろう。



ほがらかに笑いながら、陽平は紙袋から重厚そうな四角く赤い箱をとりだす。

きれいにかけられている同色のリボンをほどいて、ケースを開けて私に見せる。


鎮座しているのは、プラチナの指輪だった。

ひと粒ダイヤがあしらわれただけの、シンプルなデザインだ。

天井に吊りさげられた豪奢なシャンデリアに反射して、ブリリアントカットされたダイヤがひと際輝きを放つ。



「手、出して」



言われるがまま、片手を差しだす。



「そっちじゃないよ、左手だよ」



気が動転しているらしい。

慌てて左手に替える。


指輪を手にして、おもむろに私の左手をとると。

ためらうそぶりを一瞬も見せることなく、薬指にするするとすべらせていく。



サイズは、ぴったりだ。




つきあって間もない頃に、26回目の誕生日を迎えた。


プレゼント、何かほしいものあるか、と訊かれ。

指輪、と即答していた。

サイズはその時に教えていた。


結婚を意識して答えたわけじゃない。

彼氏持ちをアピールするために、左手の薬指を彩る証拠となるものがほしかったのだ。

会社の同僚に頻繁に誘われる合コンに、辟易しかけていた頃でもあった。

社会人になってすぐの頃なら、毎回のように参加していた。