「なんだかよくわからないけど、良かったね!
僕、このままここにいられるみたいだ。
ずっと君と一緒にいられるんだよ。」

「ふみー……」



なんてこった。
みんなの反対を押し切って、ようやく都会暮らしが出来るようになったっていうのに……



いや、落ちこむ原因はそれじゃない。
それよりももっと大変なことがある。
そう…この状況がどうやら夢ではなく、現実だということだ。
ありえない…こんなこと、絶対にありえない。
そう思う気持ちとは裏腹に、時が過ぎるごとにこれが現実だと感じることが増えて行く。



「ふぎゃふぎゃぎゃー」



当然のことだけど、僕が伝えたいことはすべて猫の変な鳴き声になってしまって、伝えることは出来ない。
どんなに賢い猫だって、きっと口の構造かなにかの問題で人間の言葉は話せないんだ。
そして、伝えたい事が伝えられないもどかしさというものを、僕はいやという程痛感した。

だけど、そんな僕にアレクは本当に優しくしてくれた。
的外れな解釈もいっぱいあったけど、彼は僕のことをとにかくいつも気にかけてくれたんだ。



僕は、彼をそんなに可愛がっただろうか?
そりゃあ、子供の頃はもの珍しさもあって可愛がったかもしれないけど、最近じゃ僕はここを離れてるし、帰って来たら彼には愚痴を言うばっかりで……
それなのに、どうして彼はこんなに僕によくしてくれるんだろう?



それだけじゃない。
家族も僕…いや、僕の姿になったアレクにだけど……
本当に優しくしてくれた。
まるで僕が子供にでも戻ったかのように、母さんは仕事にも行かずアレクにつきっきりでいろんなことを教えてた。
熱いものはすぐに口に入れてはだめだとか、トイレの使い方とか、ベッドに入る時は靴を脱ぐとか……
父さんやライアン、そして、おじいちゃん、おばあちゃんもそりゃあ優しく接してくれる。
僕は、本当にみんなから愛されてるんだと気付いたよ。
それなのに、僕は、自分の夢を優先してここを出て行った。
都会で、家族のことを思い出すのは、仕事で叱られた時や、誰かとちょっとトラブルがあった時くらいのもので、楽しい時には思い出すことさえあんまりなかったっていうのに……

なんだか、自分がすごくいやな奴みたいに感じられた。

もしかして、僕がこんな姿になったのも、その罰なんじゃないかって思えるよ。