いつかの時代の、どこかの国。

名前も、場所も、今もまだ存在しているのか分からない所。

解ることは、レンガで造った家や、綺麗なドレス、王子様お姫様がいるようなそんな場所だということ。

今日も一人の男が、役所の前で門番をしている。

彼には最近、一つの楽しみがある。

それはこの役所の通りの末にある綺麗な建物からやってくるのだ。

レースのカーテンがかけられた窓からは、少女たちが上品に笑いあってる姿が見える。

富裕層の彼女たちは連日のようにあそこへ集まり、お茶をのんだり、詩を見せ合ったり、一緒に人形や服を作っているのだ。

四時を少し過ぎると建物のドアが開く。男は突然背筋をしゃきっと伸ばし始めた。

まっすぐな、ブロンドの髪を持った美しい少女がドアを開け、彼女の友人らしき少女たちに手を振り別れてからあの役所の前の通りを歩き始めた。

彼女のそのサファイアのような瞳があの男を映すと、彼女は急ぎ足で彼のもとへ近づいた。


「こんちには。今日もお疲れ様、門番さん」

「ありがとう、エヴァ」


するとエヴァと呼ばれた女性はくすりと笑った。


「最近やっとため口が慣れてきたわね」

「君が憎まれ口をたたき続けてくれたおかげで」

「あら、皮肉も言えるようになったの」

「…君はどうも俺を下に見るのが好きと見える」


皮肉を皮肉で返されてエヴァはさっきよりも高らかに笑った。

笑えば、彼女のサファイアのような瞳が細まり、薔薇の花びらのような唇が嬉しい曲線を見せる。

少し意地悪なことを言って笑っても、いつもどこかに上品さが存在する。

彼女はそんな女性だった。