第76話 『口裂け女』語り手 能勢雅亮 

 さて、いよいよ怪談も後半戦だ。部屋に立ち込める空気が重く感じられる。本当に百物語が終わる時が来るのが怖い。
「よし、僕の出番だね。久々に怪談のメジャーネタを話してあげよう」
 能勢さんはそう言うと、一枚の写真を取り出した。
「何ですかこれは……?」
 私は写真を手に取り、写真に写されている赤いワンピースを着た、マスクを着けた一人の女性を見た。
「きゃっ! よく見たらこれ……赤い服じゃない!」
 隣から覗き込んだ斎条さんが悲鳴をあげた。
「ええっ?」
 私は慌てて写真をもう一度マジマジと見た。
「本当だ……」
 髪の長い女性。白いマスクで口元を隠しているが、よく見るとマスクの下からはダラダラと流れ落ちたであろう、血液でもともとは白だったワンピースが赤く染まっていた。……そして、何よりも目を惹いたのは大きめのマスクにもかかわらず、隠しきれない耳元まで伸びている裂け目……。
「これはね、ある週刊誌に掲載されていた口裂け女の写真だよ」
 能勢さんは怖いほどの笑みを浮かべていた。
「でもこれ……デマなんですよね?」
 能勢さんはいかにも心外だという風に大げさなお手上げポーズをとった。
「か~、これだからな~。週刊誌といえば芸能人のゴシップネタや風俗関連の記事ばかりだって思ってない? 何気に体をはった記者の記事の中には真実が潜んでいたりするんだから」
 そして、能勢さんは写真を机において話し始めた。
「俺の大学時代の友人でこの週刊誌の記者になった奴がいるんだけど。この口裂け女について調べて、実際に体験したっていう話を教えてあげる」