「……こんなはずじゃ、なかったっつの」


あたしは目の前の机を睨みつけた。


机の上にはホイップあんパンとメロンパン。


「あと5分早かったら、大好きなチョコデニッシュが買えたのに」

「文句言いなや。そのホイップあんパンかて、あんたの好物やろ」


隣のなつが野菜ジュースを啜る。


「……まあ、いいけどさ」


あたしはホイップあんパンにかぶりついた。


食べ物はいいけど、翔さんのことは「まあいいか」では済ませられない。


『──こんなはずじゃなかった』


あれから二週間。


あたしはあの日、翔さんに『もう、帰って』と言われさっさと帰るしかなかった。


翔さんは鬼畜ではないから、さすがに服は着替えさせてくれたけど。


家に帰り、介抱してくれた翔さんにお礼を言うことを忘れたと思い出した。


メールを送ろうとしたけど、携帯に向かう気力は残っていなかった。


記憶がない、なんて嘘だった。