「んじゃまた後でな、アキ」

「うん」

「時間までしっかり寝ろよ。
でなきゃパーティー中
お前だけベッドに縛り付けてやる」

「わかったってば、リョウ。
約束する」


親父バリに説教する俺の言葉に
適当に頷いて見せたアキは

まだ少し青い顔のまま
「じゃね」と手を振ると
黒いドアの向こうに消えていった。


さてと、


俺は右腕に抱えたベースと鞄を持ち直し
ふうっと一息ついた後、
エレベーターへと足を進めた。


現在日時はクリスマスイブのPM1:07。
この場所は
一人暮らしをするアキのマンション。


――あれからホテルに戻った俺は
アキを見ててくれたカズマと交代。

ユウキの言葉通り
結局アキは朝まで目を覚まさなくて
俺はそんな彼女の様子を見守りつつ
隣のベッドでウツラウツラ。

もちろんまともに睡眠は取れなかった。


当初の計画では、せっかく来たんだし
今日一日は東京で遊んで
最終の新幹線で地元に帰り
その後はアキの家で
皆で朝までクリスマスパーティー。

なんて若さにものを言わせた
強行スケジュールを考えてたんだけど
さすがにアキの体調を心配して
俺と二人先に地元に帰って来た。


カズマ達は予定通り今も東京。
夜10時にアキの部屋に
皆で集合する事になってる。


やけに懐かしく感じる地元の空気は
やっぱり東京のそれより
寒さが鋭く肌に突き刺さって感じる。


マンションのエントランスを抜け
地上に下りた俺は
ジャケットの襟元に顔を埋めて
濃い色の白い息を吐いた。


シンとした静けさ。
冬の匂い。


今夜は雪が降るような
――そんな予感がした。