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ライブ開始予定時間までは
あと15分ほど。


ステージ横で出番を待つ俺らの間では
かつてないほどの緊張感が広がってて

ケンゴはスティックで空中を叩き
カズマは天に向かって
意味不明に十字を切り

俺は胸に抱えた
真っ黒いベースの弦を押さえながら
ひときわ固い表情をした
アキの背後に近づいた。


「まだ怖いか?」

「え?」

「だってあんな事があってから
ステージに立つの今日が初めてだろ?
大丈夫か?」


余計なお世話かとか思いながらも
やっぱほっとけなくて

そんな言葉をかけた俺を振り返ると
アキは数回首を横に振った。


「うん、平気。

ただ……ほら何て言うか
意外とあーゆー時って
動けなくなっちゃうんだなぁって」

「動けなくなる?」


あの時微動だにしなかったアキの背中が
まざまざと脳裏に浮かび上がる。


「うん、そう。
目の前に誰か来たって
見えてはいるんだけど
頭と身体が働かないの。

ほらステージってある種独特な世界だから
何が現実か……とかの
正常な判断が出来なくなる」

「ああ、それは、よく解る」


俺だってコイツの声のせいで
何度トリップしかけた事か。


すぐに同意した俺の返事に
アキは少し驚いたような表情をすると
形のいい唇に指をあて
独り言のように呟いた。


「そっか……
みんな結構そうなんだね」


……みんなってどういう意味だ?


そのフレーズがやけに引っ掛かって
更に突っ込んで聞こうとしたら

やたら気合いの入った風のケンゴが
俺らの会話を停止させた。


「リョウ、アキ
時間やぞ」