「カナー、また頼むわ」

「え……またなの?」

「うんっ!」


うんっ!って……。

我が物顔で家庭科室に入ってきて、しかも、あたしが断るとは少しも思っていないような顔で可愛らしく笑うオトコ、1匹。

名を、椎橋直樹、あだ名はナオという。

これ、あたしの幼なじみ。

はあ……。


「ちょいちょい、なんであからさまに嫌な顔をすんの。今度はほんっとうに大恋愛の末に別れたんだって。いつものあれ、頼むよカナ」

「そのわりには、ずいぶん元気そうじゃん」

「うん、空元気だし!」

「……じゃあ、言うから、ちょっと廊下に出よ」


なんでこんなチャランポランな男と幼なじみなんだろう、と思うこと、数知れず。

それでも、いてくれてよかった、と思うことも同じくらいあって、なかなか突き放すような態度を取れないあたしは、ナオにそう言うと、三角巾を外して家庭科室を出た。

その後ろをトコトコとついてくるナオは、なにが大恋愛だ、と思うほど、陽気な足取りだ。


まったく……。

これじゃあ、ナオとつき合い、別れる、という時間や労力や、好きという気持ちを丸々無駄にした元カノさんがかわいそうすぎる。