とっくに面会時間は過ぎていたけど、顔見知りの看護婦さんは僕を見つけると黙って通してくれた。
すっかり黙ってしまったセリちゃんは、カレンの病室の前で待ってる、とだけ言って立ち止まった。
 僕は久しぶりに来るカレンの病室に、静かに滑り込んだ。
相変わらず殺風景な真っ白い部屋の奥に、カレンのベッドはまだあった。
身体を起こして窓の外を見ていたカレンは、僕に気がつくと驚いた様に目を見開いた。

「ケン…」

 僕が最後にカレンを見たときよりも更に痩せて、それでもカレンは微笑んだ。

「何しにきたの?」

顔には笑顔を貼り付けてはいるけれど、それでも拒絶しているのがよくわかる。

「会いに来た」

「……」

カレンは何も言わない。
僕はゆっくりとカレンのベッドに近づくと、傍にあった椅子を引いて座った。

「ユウに、怒られた」

「え?」

カレンは驚いた様に首を傾げる。
僕は、ありのままをカレンに話そうと決めていた。

「僕は、あの日逃げたんだ」

ぽつり、と話し始める。
そんな僕を、カレンはどこかぼんやりと見つめていた。

「カレンを守るのは、僕だって思ってた。ずっとカレンが好きだったから、告白された時はうれしかった。カレンが倒れた日だって、それでも僕は一緒に歩いていこうって思ってた」

「ケン…」

「でも、カレンはずっと一人で戦っていたんだって…あの日、別れようって言われて思った。僕の存在なんて、君にとってそれほど価値があるわけじゃないって、思ったんだ。そうしたら、なんか何もかもどうでもよくなった」

僕の言葉に、カレンは目を伏せた。
本当はそうじゃないって、僕にはわかってる。
だけど、伝えなくちゃならない。

「僕は、君が好きだよ」

「……」

「君が僕を遠ざけたいって思っても、やっぱり僕は君が好きなんだ。違う子と遊んでも、付き合っても、やっぱりそれはカレンじゃないんだ。だからカレン、もう一度やり直そうよ」


穏やかに言えたと思う。
カレンは暫くじっと自分の手を見詰めたまま動かなかった。
僕も、言いたい事はいってしまったから、そのままカレンを見つめていた。

「…馬鹿」

ややあって、カレンが小さく言った。