◆良雄達に抗議に行こうと思った。


確かに良雄達…いや、正確に言えば智紀(とものり)達の悪い噂は、話し半分に聞いてもかなり酷いものがあった。

(智紀というのは、良雄と翔太を含む三人の不良グループの中で、リーダー格のクラスメイト。)

今まさに、良雄と翔太が話している会話の内容がそれを物語っている。

…し、実際には、それよりもさらに酷い行為をしているという噂も聞いたことがある。

だけどその怖さを差し引いても、どうしても一言言って、この胸くそ悪い会話を中止させたかった。


……それに軽く諭すくらいなら、もしかしたら奴らだって、素直に聞いてくれるかもしれない……。


そう考え、意を決してシートから腰を持ち上げた。

瞬間。


─ポン。


右肩に、軽い感触。

感触を感じた部分に視線を移せば、司の右手が置かれていた。

思わず司のほうを振り返ると、首を小さく横に振り、同じくらい小さな動作で唇を動かす。


「七夜。
気持ちはわかるけど、やめといたほうがいいよ…」


頭のいい司は、俺が無言で立ち上がったのを見て、俺が何をしようとしているのかを察したようだ。

その言葉から少し遅れて、今度は、制服を下のほうに引っ張られた。

その方向を見れば、裕也が俺の制服の裾を、震える手でつかんでいる。

手の位置から視線を少し上げれば、今にも泣きだしそうな表情で、俺の顔を見上げている裕也の顔が視界に入った。


「七夜くん…だめ……やめて…」


小さく開いた口からは、そんなかすれた声が微かに聞こえた。