久しぶりに言った「いってきます」の一言。


 今までは誰も聞いてくれなかったけど、ハルが聞いてくれて「いってらっしゃい」って言ってくれた。


 あの時のハルの笑顔、すごく優しくて温かかった。
 

 昨日の私の話を優しく聞いてくれたハル。


 今まで誰にも弱い自分なんて見せなかったから、なんかスッキリした。
 

 ハルって私を悲しませるどころか、包んでくれたり喜ばせてくれたり。


 なんか、お兄ちゃんが出来たみたいだな。


 私、こんなに優しい死神に会えて良かったかも。


 死神っていい人なんだなぁ。
 

 今日は、何があっても桃華を止めるんだ。


 でも、まずはあの子に謝らないと。
 
 

 学校についた私は、昨日のあの子を探した。
 

 …どこにいるんだろう。


 もしかして、不登校になってたり…なんて考えて、靴箱をのぞいてみたけど靴はあった。
 

 よかった。来てくれたんだ。
 

 私は、クラス中のみんなに聞いて回っった。
 

 「そういえば、屋上の方に行った気が…。」
 

 ある女の子が教えてくれた。あの子に会えるんだって思ったら、いつのまにか走っていた。


 謝んなきゃ。


 許してもらえないかもしれないけど、精一杯、気持ちを伝えなきゃ。
 

 ガチャっ!
 

 屋上の扉を勢いよく開けた私が見たものは…手すりに上っているあの女の子。
 

 え?何してるの?
 

 女の子は私に気づいていないみたい。私はゆっくりと彼女に近づいた。
 

「…何、してるの?」


 彼女は私を見た途端に目を大きく見開いて叫び始めた。


「来ないで!なんなの?あなた。」


 よく見ると、彼女の髪の毛は雑に切られた跡が、残っている。


 昨日の…あの時だよね?


 キレイだった髪の毛がバサバサに切られている。


 …ひどい。こんなのって、ないよ。
 

 この子、死ぬつもりなの?


 私が助けなかったから?


 あの手を、つかんであげられなかったから?


 全部…私のせいだ。


 恨まれてもいい。嫌われたって当然。


 だから…死なないでよ。
 

「昨日のこと…謝りたかったの!昨日、助けてあげられなくてごめんなさい!ホントにごめんなさい!」


 私は、何度も何度も頭を下げた。


「ふざけないでよ!今さらなんなの?…もう、どうでもいいの。早く楽になりたいから。だから、ほっといて。」
 

 そういうと、また下の方を向いて飛び降りようとする。


 私はもう、どうすればいいのかわからなくて、ただ必死に彼女の腕をつかんだ。
 

「離して!こんな世界もういや!死にたいの!死なせてよ!」
 

「そんなこと言わないで!私は生きたい!生きていたいの!もっと生きようよ!一緒に乗り越えて行こう?ねぇ、お願いだから!」
 

 彼女はいっそう力を強くする。
 

「そんなの、どうせ裏切るんでしょ!もう、嫌なの!人も、この世界も。」
 

 どうすればいいの。


 どうしたらこの子は止まってくれる?


 どうしたら生きたいって思ってくれるの?


 ねぇ…ハル。どうしよう。
 

 必死に考えていたら、またあの声が聞こえてきた。
 

【ホッテオケ】


 ダメ!


 【コンナ奴、イラナイ】


 いるの!いらない人間なんて、この世にはいない!


 私は手すりの上で彼女の腕を強くつかんでいる。


 でも、彼女も負けじと力を入れて私の手を離そうとする。
 

【ハナセ!】


 うるさい!消えろ!


 彼女がバランスを崩して落ちそうになった。 


 私は、彼女を思いっきり引っ張った。


 …途端に私が落ちていく。


 時間ってこんなにゆっくりなんだ。


 彼女は上から私を見ている。


 …よかった。助けられて。


 どうせすぐに死ぬ運命だったし。


 しょうがない。ちょっと早くなっただけ。
 

 私、生きてる意味あったのかな?


 こんな私でも、人に何かできたことあったかな?
 

 あ。お母さんにお別れ言ってないや。


 ごめんね、こんな娘で。


 今まで育ててくれてありがとう。


 ちょっと先に行ってるから。
 

 菜子。結局、昨日がお別れだったね。


 今も、菜子と撮ったプリ、ポケットに入ってる。


 ホントにありがとね。


 ずっと、友達だよ。


 菜子がいてくれたから私、いつも笑ってた。
 

 そして、優輝君。最後まで、伝えられなかったな。


 どうか私のこと、覚えていてね。


 あと…お幸せに。
 

 みんな、ありがとう。


 ホントはずっと一緒にいたかったけど、どうにもならないから。


 どうか、私の分まで長生きしてください。


 あと、わがままかもしれないけど、私のこと忘れないで…。
 

 みんな、大好きです。




 











 バサッ!


「はる?大丈夫?」


「ハル?あれ?死神の世界・・・じゃないよね?ここ」


「うん。だってはる、死んでないし。」


死んでない?どうして?


だって、屋上から落ちたんだよ?


こんなことってある?


混乱している私を見て、ハルはいたずらっぽく言った。
 

「だって僕、キャッチしちゃったし。」
 

 ハルが助けてくれたの?


 どうして?死神なのに。私を連れて行くって言ってたのに。
 

 …怖かった。すごく怖かったよ。


 まだ手が震えてる。
 

 優輝君。菜子。お母さん。会いたいよ…。
 

 私、最低だ。


 ハルが助けてくれたのに、みんなのことばっかり。
 

「ごめんね。ありがとう、ハル。」
 

 ありがとう。


 でも、どうして?


 どうして助けてくれたの?


 今はまだ、死ななくていいの?


 生きてていいの?
 

 
 ねぇ…ハル。