「あらすじ」


 如月由乃と城ケ根夏美は仲違いをしてしまった。
しかし、由乃は「自分が悪いことをしたのか。」がわからなかった。
すると、戸部優羽が関係ない質問してきた。
「{あたかもしれない。}という言葉を使って文章を作りなさい。っていう問題がわから ないんだけど、お前なら得意だろ?こういうの。」
もちろん由乃は答えなかった。夏美のことで頭がいっぱいで・・・。
 すると、廊下で夏美を見かけた。夏美と一緒に作った小さなビニール袋をポケットの上からそっとなでた。そのなかには銀木犀の花が入っている。勇気をだし夏美に、
「あの、夏美―――――」
由乃が声をかけたのと、隣のクラスの子が夏美に話しかけたのが同時だった。夏美は一瞬こちらを見た後、隣の子に何かを答えながら私からすっと顔を背けた。

 もうどうすればいいかわからなくなった由乃は外の水道で顔をバシャバシャと洗った。手のひらに水を受けて何度もほおをたたいていると、足音が近づいてきた。「おい。」と声をかけられた。戸部くんだ。ずっと耳になじんでいた声だからすぐわかる。顔を吹きながら後ろを振り返ると、戸部くんが言った。
「俺、考えたんだ。」
なにを言われるのか少しこわくて黙っていた。
「ほら、{あたかも}という言葉を使って文を作りなさいってやつ。」
「ああ、なんだ。あれのこと。」
「いいか。よく聞けよ。・・・おまえはおれを意外とハンサムだと思ったことが―――――」いやりと笑った。「―――――あたかもしれない。」
顔を見合わせてふき出した。気づかなかったけれど、私より低かったはずの背はいつのまにか私よりずっと高くなっている。
 私はタオルを当てて笑っていた。涙がにじんできたのはあんまり笑いすぎたせいだ、多分。

 学校の帰り、少し回り道をして銀木犀のある公園に立ち寄った。するとボランティア活動をしているおばさんが草むしりの手を休めて話しかけてきた。
「いい木だよねえ、こんな時期は木陰になってくれて。けど春先は、葉っぱが落ちて案外厄介なんだよ、掃除がさ。」
 私は首をかしげた。常用樹は一年中葉っぱがしげっているのに。
「え、葉っぱはずっと落なんじゃないんですか。」
「まさか、どんどん古い葉っぱを落っことして、その代わりに新しい葉っぱを生かすんだよ。そりゃそうさ。でなきゃあんた、いくら気だって生きていけないよ。」
帽子のおばさんは笑った歯だけ白く見えた。

 ポケットから ビニール袋を取り出した。花びらは小さく縮んで、もう色がすっかりあせている。
 袋の口を開けて、星型の花を土の上にパラパラと落とした。
 ここでいつかまた夏美と花を拾える日が来るかもしれない。それとも違うだれかと拾うかもしれない。
 どちらだっていい。大丈夫、きっとなんとかやっていける。
 私は銀木犀の木の下をくぐって出た。