騒がしい若い連中が居間から出払った。




菜々子は縁側から外を眺めながら、

昔を思い出していた。




遠い、遠い記憶の中。

菜々子がまだ小学生の頃。

近所の悪ガキに虐められた菜々実が

泣きながら家に帰って来て。




『お姉ーちゃーぁあん』




菜々子に縋り付いて泣いていた、菜々実。




『お姉ちゃんが、悪い奴をぶっ飛ばす!』




そう言って、父の竹刀を勝手に持ち出し

悪ガキ相手に取っ組み合いの喧嘩をした。




泥だらけになって。

菜々実がわんわん泣いて。

父親がすごい剣幕で怒って。

家の中に入れてもらえず、

菜々実と当時あった物置小屋で

泣きながら眠った。




朝起きたら、自分の部屋にいて

怪我の手当もされていて。

菜々実が父に土下座して謝っていた。

菜々子も一緒に土下座して謝った。




やっと許してもらえて、

菜々実が菜々子に言った。




『あだし、づよぐなるっ…!』




鼻水を垂らしながら大泣きしている癖に

何を言っているのだ、と思った。




だけど、それから菜々実は

本当の意味で菜々子を頼らなくなった。

常に自分の意思で、正しい道を歩く。




姉の自分が情けなかった。

菜々実を守れなかったことも、

頼られる存在になれなかったことも。




ぽん、とナツばぁちゃんが

肩に手を置いた。

知らない間に目が潤んでいたらしい。

これじゃ、子供達が戻って来たら

馬鹿にされてしまう。




「ありがとう、母さん」




そう言って立ち上がり、

久しぶりに母の部屋に向かう。

来る度、お線香をあげたい気持ちになる。

だけど、仏壇にある菜々実の

写真を見るのが怖かった。




途中、早苗の部屋を覗く。

自分の息子が痛みに悶絶していた。




早苗ちゃん…中々やるわね。

頑張れ、亮ちゃん!




母は何も見なかった事にしよう。