俺の友達の岡野はジャンプ力が凄い。とにかく凄い。凄いったら凄い。垂直跳び25メートル。なんじゃそりゃな超人は『事実は小説より奇なり』という言葉を証明する生ける標本なのだ。多分サイヤ人の血が2%くらい流れてると思う。
 
 そんな岡野が、自宅のマンションの屋上から今まさに飛び降りようとしている。
 左手には大きめの黒いボストンバックを持ち、右手で携帯を耳に押し当てて誰かと会話している。
 
 ちなみに会話している相手はマンションの下に集まって岡野を見上げているギャラリー達の一人――つまり俺だったりする。
 
「おい、何やってんだよ。あれか?垂直跳びで宇宙進出か?バカなの?バカなのか?とりあえずバカ新記録は既に君のモノだから安心しなさい」
 
「正直、宇宙に行けたら一番いいんだが……これには深い理由がある」
 
 俺の皮肉に答える携帯越しの岡野の声は状況とは裏腹に意外に冷静だった。
 
「まさか飛び降り自殺じゃないだろうな?おいおい……頼むからやめてくれ。お前の真下に止めてある新車は何を隠そう俺の車だ。憧れのオープンカー。ローンもバッチリ。とりあえず落ち着いてあと三歩ほど横にズレろ。すげぇ嬉しくなるから、主に俺だけが」
 
「あぁ……趣味の悪い痛車が停まってると思ってたらお前のか。アレだな。とりあえずお前の趣味の方をクローズしとけ」
 
 いつもの減らず口で少しだけ安心する。どうやら自殺をする気はないらし――
 
「水木。俺は今から自殺しようと思う」
 
 前言撤回。奴はバッチリ死ぬ気でした。
 
「なんだよ……木田さんにフられたのか?」
 
 木田さんとは岡野の彼女。可愛いらしいが、頭のネジが百本くらい抜けてて残りのネジはじゃがりこで代用してるような異世界の住人。