『それでは、これよりゲームを開始します。まずは、ゲームの舞台まで自らの足でお越し下さいませ』
「……は?」

先刻と同じようにアナウンスで流れた言葉に思わず伏せていた目を大きく開いたアテナ。周りの参加者もざわついていた。誰もがこの会場をゲームをする場、つまり舞台だと思っていたのだからアナウンスの言葉には驚いただろう。
しかし、そんな参加者たちを余所にアナウンスは続く。

『これより、12時間以内に舞台までお越しいただけない方は失格とさせて頂きます』


アテナはなるほど、と納得していた。会場にいる主従、従者を総合した数は明らかにゲームを行うという人数ではないからだ。人が多いと一つのことをするのに限りがうまれる。ましてや初対面の者ばかりで、貴族と庶民が入り乱れている中ではやりにくいといったら無いだろう。

『地図はお手元のルールブックの裏表紙を光に透かしてご覧下さい、くれぐれも時間にはお気をつけて』

再びアナウンスの切れた無機質な音が聞こえる。
全く厄介なルールをいくつも寄越してくるゲームの主催者ではあるが、顔も分からない相手に二度も怒鳴り散らすわけにはいかない。
これから大きく移動する必要が出てきてしまった以上、体力は温存しなければならない。

既に裏表紙を透かして動き出している参加者たちもいた。
アテナがくしゃくしゃにして捨てたルールブックはどうやら誰かに捨てられたらしく見当たらなかった。
うんざりした表情で溜め息をついたアテナは腕を組み、自分はあくまで推薦という枠にいるのだと思い出す。
どうせ篩に掛けられる参加者のうちの一人なのだから家に帰して貰える可能性もある。もちろん、相手にこちらの話が通じれば、ではあったが。

アテナはそこまで考えて、ハッとしてコレーを見た。コレーは必死に裏表紙を光に透かしているが、地図がうまく読めないのか色んな角度から見たり曲げたりとしている。
いくらゲームに参加する気がないとはいえ、幼いコレーをこんな場所に残していくのは気分が悪いのだ。