家で「生きている」と感じない分、学校では「生きている」と感じていたかった。


「葉月、」
「ん?」
「帰らなくていいのか?」
「うん…」
「ならいいけど…」


学校が終わって、私は一人夕日を眺めていた。
幼なじみである杉村遙が部活を終え、いつものように私を迎えに来る。でも私はその場から動こうとはせず、ただただ黙って茜色の夕日を見つめた。
そんな私の様子を察してか、遙は荷物を自席に投げ捨て、ゆっくりと私の傍まで駆け寄る。


「どうかしたのか?」
「いやー?たださ…一生変わらないものと、自由に形を変えていけるものと、どっちがいいのかなって、」


意味のわからないことを言っているのは自分でもわかった。
でもそんなことさえも黙って聞いていてくれる遙だから私はなんでも話してしまうのだろう。

でも、遙だからこそ話せないこともある。


「俺は、どっちでもいいなぁ…」
「えっ?そんなどうでもいい質問だった?」


いつもなら根拠はないけどね、なんて言いながらも答えを出してくれていたのに。


「だって、考える必要なんてないよ。その両方を羨ましく思うのは当然のことだし。どっちがいい、じゃなくてどっちもいい、って、俺はそう考えるな」


たまに遙のこういう言葉には励まされることがある。私には考えもつかないような答えを、私に教えてくれる。


「そうだね、ありがとう…」
「おぅっ!」


そんな、とある放課後の、とある会話。